○舌で物を見る？


彡(ﾟ)(ﾟ)「舌でモノを見られるようにするやて？いったいなんなんやそれは」

(´・ω・｀)「えっとね。ブレインポートというのは、視覚障碍者の視覚機能を代行するための機械装置でね」

(´・ω・｀)「2015年にアメリカで承認された医療装置なんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「割とつい最近なんやな」

(´・ω・｀)「この装置は表面に600個の小さな電極が並べられた1.5×1.5cmほどの小さな薄い板なんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ちょっと大きめの切手くらいの大きさなんやな」

(´・ω・｀)「そしてこの板にはCCDカメラがワイヤーで接続されてる」

(´・ω・｀)「この板の上の600個の電極にはCCDカメラから送られてくる画像データに合わせて電流が流れるんだ」

(´・ω・｀)「左上の電極は画像の左上、真ん中の電極は画像の真ん中、という風に電極と画像の位置は対応していて、」

(´・ω・｀)「CCDカメラのある位置が青い光を感じたらそれに対応する電極が『ピリピリ』という波長の電気を流す」

(´・ω・｀)「赤い光を感じたら『ピリリ、ピリリ』、緑の光なら『ピリッッピリッ』という風に光の三原色ごとに固有の波長の電流を発生させるんだ」

(´・ω・｀)「さらに光の強さに応じて電流の強さも変える」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ふむ。ようするにカメラで捉えた画像が板の上の電極でデジタルな電流の信号に変換されるっちゅーことか」

(´・ω・｀)「そんな感じだね。そしてこの板を使用者の舌の上に載せるんだ。するとCCDカメラを起動すれば使用者は舌に電気刺激を感じるだろう」

彡(ﾟ)(ﾟ)「思いっきり感電するやん。大丈夫なんか？」

(´・ω・｀)「電流はとても弱いから大丈夫だよ。ちょっとピリッとする程度さ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「で、どないなるんや？」

(´・ω・｀)「するとね、なんとCCDカメラが映した映像が舌の電気刺激を通じて使用者の頭の中に画像を映し出し、視力が擬似的に回復するんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ファッ！？いやいや、いくら画像を電気信号化したものとはいえそんなん舌に流しても画像化されるわけないやん！」

彡(ﾟ)(ﾟ)「人間の脳はコンピューターやないんやで！USB接続してるとでもいう気か！？」

(´・ω・｀)「信じられないのも無理はないと思うよ。僕も最初に知った時はそんな馬鹿なと思ったものさ」

(´・ω・｀)「でもこれはすでにアメリカで視覚障碍者の医療法として承認を受けていて数百人以上がこれで日常生活が可能なレベルまで視力が回復しているんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「いや、そうはいわれても中々信じられへんで」

(´・ω・｀)「もちろん使った途端に完全に視力が回復するというわけじゃないよ。日常生活ができるレベルになるには個人差はあるけど一年以上かかる」

(´・ω・｀)「それに生身の目に比べれば性能はだいぶ劣る」

(´・ω・｀)「それでもこれを使い始めてから大半の人は数時間以内に物体の輪郭とか距離が大雑把ながら感じられるようになり、」

(´・ω・｀)「机や椅子などを避けて歩くことができるようになるし、1～2年くらいすれば人の顔や表情の見分けもできるようになり、テレビや本も楽しめるようになる」

(´・ω・｀)「中にはスポーツが健常者並みかそれ以上にできるようになった人もいて、ロッククライミングやエベレスト登山に成功した人もいるよ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「時間はかかるんやな。でもそこまで回復するってのも十分すごいな」

○どうして舌で物を見ることができるの？


彡(ﾟ)(ﾟ)「しかしなんで舌に電流を流したらCCDカメラの映像を見れるんや？」

(´・ω・｀)「それじゃブレインポートでなぜ見えるようになるのか、原理について説明するよ」

(´・ω・｀)「さっきのブレインポートの説明は覚えてる？」

彡(ﾟ)(ﾟ)「えーと、カメラ映像の各位置に対応した電極が映像上の光の三原色に合わせて電気信号を流す、それを舌で感じる、やったかな」

(´・ω・｀)「そうそう。実は僕らの生身の目も原理的にはそれと同じ構造なんだよ」

(´・ω・｀)「眼球の水晶体が目に入った光を網膜に焦点を合わせて収束させる」

(´・ω・｀)「網膜には光の三原色にそれぞれ反応する3種類の視細胞というものがあり、対応する色の光を浴びると神経電流を発生させる」

(´・ω・｀)「発生した神経電流は視神経を通って脳に送られて脳で画像化されるんだ」

(´・ω・｀)「ブレインポートもCCDカメラが眼球の役割を果たし、電極板が視細胞の役割を果たす」

(´・ω・｀)「すると舌にある感覚器官が視神経の役割を果たしてCCDカメラが捉えた画像のデータを神経電流に変えて脳に送ってくれるわけさ」

(´・ω・｀)「そう考えると途中の経路がちょっと違うだけで実質生身の眼球と原理は同じでしょ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「うーん？いや、ちょっと待ってや。2つ疑問がある」

彡(ﾟ)(ﾟ)「まず1つめ。眼球の視神経と舌の感覚神経では脳の繋がる先は別のはずや。舌の感覚神経はあくまでも舌の感覚を処理する脳部位にいくはずや」

彡(ﾟ)(ﾟ)「なんでそれが視覚になるんや？視覚中枢に信号が行くんか？」

彡(ﾟ)(ﾟ)「次、ブレインポートの電気信号は人間の脳にとって視細胞の神経電流と同じ規格なんか？」

彡(ﾟ)(ﾟ)「神経の信号とCCDカメラのデジタル信号は別物のはずや」

彡(ﾟ)(ﾟ)「もし規格が違うならウィンドウズPCにマッキントッシュ専用のデジカメを無理やり繋いだようなもんや。認識できなくてエラー起こすだけやろ」

(´・ω・｀)「いい質問だね」

(´・ω・｀)「まず1つめ、舌からの信号が脳の視覚中枢に行くのか？」

(´・ω・｀)「これについては脳がその信号のパターンが視覚データに近いと気が付くことができれば視覚中枢までその情報を送るようになるんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「気が付くことができれば……？てことは気が付かないこともあるんか？」

(´・ω・｀)「さっき言ったでしょ。ブレインポートを付けてから物の輪郭や距離が大雑把に分かるまで数時間かかるって」

(´・ω・｀)「つまり脳がブレインポートの信号が視覚データに近いと気が付くまで数時間はかかるんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「なるほどな。とはいえほんの数時間で気が付くってのもすごいな」

(´・ω・｀)「そして2つめ。視細胞の信号とブレインポートの信号の規格は同じか？実のところ全く違う」

彡(X)(X)「違うんかい！」

(´・ω・｀)「だから脳は最初はブレインポートからの信号を理解できなくて混乱するよ」

(´・ω・｀)「でもね、CCDカメラも生身の眼球も規格は違えど光を受信して外界の三次元構造を捉えていることに変わりはない」

(´・ω・｀)「だから例えばCCDカメラを左右に振ると、目を左右に振った時と同じような信号の変化パターンが発生する」

(´・ω・｀)「CCDカメラを真正面に向けて壁に向かって歩いて壁にぶつかれば『壁が至近距離にある時はブレインポートからこういう信号が来る』ということに気が付く」

(´・ω・｀)「そういう経験をいっぱい積むと脳はブレインポートから送られてくる信号が現実空間とどう対応しているのか理解していき、」

(´・ω・｀)「ブレインポートに対応した視覚処理系を新しく構築していくんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「あー、言ってみれば聞いたことのない外国語を体当たりで習得するみたいなもんか」

(´・ω・｀)「いい例えだね！ブレインポートから送られてくる信号は脳からすれば初めて聞く外国語みたいなものなんだ」

(´・ω・｀)「だから最初は理解できない。でも試行錯誤を積むことで外国語が分かってくるようにブレインポートからの信号を理解して高度に視覚化できるようになるんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「それがだいたい1年以上かかるってことか」

(´・ω・｀)「そういうこと」

彡(ﾟ)(ﾟ)「なるほどな。だいたい理解できたで」

○みんな赤ちゃんの頃に同じことをしていたよ


彡(ﾟ)(ﾟ)「ところで、なんで舌なんや？舌でないといけない理由があるんか？」

(´・ω・｀)「実のところ舌である必要も電流である必要もないんだ。ブレインポートの亜種には腕の皮膚に振動で画像情報を伝える腕時計タイプや、」

(´・ω・｀)「イヤフォンから音で画像データを伝えるタイプなんかもあるんだ」

(´・ω・｀)「どれでも視覚が回復することは分かってる。ただ、舌が一番感覚が鋭いから舌に電極板を咥えるタイプが一番精度が高いんだ」

(´・ω・｀)「とはいえ生活のしやすさを考えると、腕時計タイプやイヤフォンタイプのほうが使いやすい気もするね」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ほーん。舌じゃなくてもどこからの情報でも脳はそれが画像データだって理解できるんやな」

彡(ﾟ)(ﾟ)「しかしすごいな。なんで脳にはそんな能力があるんや？」

(´・ω・｀)「それは僕らはみんな一度はその能力のお世話になったことがあるからだよ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「どういうことや？」

(´・ω・｀)「僕らが生まれたばかりの赤ちゃんのころさ。生まれたばかりの赤ちゃんの脳は目から送られてくる視覚信号をその時初めて受信する」

(´・ω・｀)「当然、赤ちゃんの脳はそれが何なのか理解できない」

(´・ω・｀)「そこで顔や体を動かして視覚の変化を体験したり、手であちこち触ってみて視覚と触覚を照らし合わせるなどの経験を積むことで、」

(´・ω・｀)「赤ちゃんの脳は視覚処理系を構築していくんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ほへー。ワイらの脳は最初から目がちゃんと見えてた訳やないんか」

(´・ω・｀)「だから赤ちゃんのころに失明してしまった人が大人になってから視力回復手術を受けると脳の視覚処理系が発達していないから」

(´・ω・｀)「目は見えているのに目に見えているものが何なのか理解できなくてとても苦労するんだ」

(´・ω・｀)「例えば正面に壁があってもそれが壁だと理解できなくて全力でぶつかったり」

(´・ω・｀)「同じ物体を違う角度から見ると別の物体のように感じて混乱したり」

(´・ω・｀)「鏡が理解できなくて鏡の中に手を突っ込もうとしたり、鏡に映っている自分を自分の鏡像だと理解できなかったり」

(´・ω・｀)「同じ人間でも表情や髪型が変化すると同一人物かどうかわからなくなったりとね」

彡(ﾟ)(ﾟ)「それは大変やな」

(´・ω・｀)「そういう人たちも何年も時間をかければ健常者に近いレベルまで視覚が成長するけどね」

(´・ω・｀)「ブレインポートを付けた人間の脳では赤ちゃんの頃の視覚処理の成長と同じようなことが起こってるんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「納得できたで」

○ブレインポートの未来


彡(ﾟ)(ﾟ)「ところで、もしもワイらみたいな健常者がブレインポートを使ったらどうなるんや？」

(´・ω・｀)「実は健常者もブレインポートを使えばCCDカメラを新しい第三の目として使えるようになるんだよ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「マジか！？」

(´・ω・｀)「もちろんちゃんと見えるようになるには年単位の訓練が必要だけどね」

(´・ω・｀)「アメリカ軍では兵士にブレインポートを使いこなす訓練を受けさせたりしてるんだ」

(´・ω・｀)「例えば生身の目は正面を見るために使い、CCDカメラを背後に向けてブレインポートを使えば正面と後ろを同時に見ることができる」

(´・ω・｀)「他にはCCDカメラではなく赤外線センサーをブレインポートに接続することで赤外線視覚と生身の視覚を両立できるし」

(´・ω・｀)「全方位レーダーをブレインポートに付けることで三次元を見通すレーダー感覚を得ることすら可能なんだ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「すごいやん！SFの世界やで！」

(´・ω・｀)「どんなセンサーを取り付けるかで無限の可能性があると考えられてるよ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ワイも欲しい！どこで買えるんや！？」

(´・ω・｀)「アメリカだね。まだ日本では医療として承認が得られてないからね」

(´・ω・｀)「ただ一個1万ドル、今のレートだと約130万円くらいだね。輸入の手数料も考えるともっと高くついちゃう」

彡(ﾟ)(ﾟ)「130万円か……独身で貯金のあるやつなら買えなくもないが、気安く買えるもんでもないな」

(´・ω・｀)「まあいずれは日本でも承認が出て、日本の視覚障碍者も気軽に購入できるようになるんじゃないかって期待してるよ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「もっと安くなって普及すれば全盲やけどブレインポートでレーダー視界を得た達人とかも出てくるかもしれんな」

(´・ω・｀)「もっと高性能化して生身の目並みの性能になれば失明は全く怖いことじゃなくなるかもしれないね」

彡(ﾟ)(ﾟ)「技術の進歩に期待やな」

お終い