1:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/03(日) 23:54:36.00 :hk0qelnk0
くぐもった振動音が聞こえた。
ぼんやりとした頭で、ベッドから窓を見る。僅かに開いたカーテンの隙間からは光が差し込んでいて、ひっそりとした寝室をやわらかく照らしていた。
いけない。少し寝過ぎてしまったらしい。そうはいっても、まだ冬休みだから慌てることもないのだけれど。
身体を起こしてベッドから出るその時に、そういえばと思い出す。
枕元の携帯電話に通知あり。差出人は由比ヶ浜さん。
『ゆきのん誕生日おめでとう!!ホントは0時になった瞬間送ろうと思ってたんだけど……えへへ。また今度お祝いするから楽しみにしててね!!』
顔が綻ぶ。
自分でも不器用だな、と思う手つきで返信文を打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返した。そうしてできた自分なりに納得のいく文章を、少しの勇気を持って送信した。さてと……。
くぐもった振動音が聞こえた。
ぼんやりとした頭で、ベッドから窓を見る。僅かに開いたカーテンの隙間からは光が差し込んでいて、ひっそりとした寝室をやわらかく照らしていた。
いけない。少し寝過ぎてしまったらしい。そうはいっても、まだ冬休みだから慌てることもないのだけれど。
身体を起こしてベッドから出るその時に、そういえばと思い出す。
枕元の携帯電話に通知あり。差出人は由比ヶ浜さん。
『ゆきのん誕生日おめでとう!!ホントは0時になった瞬間送ろうと思ってたんだけど……えへへ。また今度お祝いするから楽しみにしててね!!』
顔が綻ぶ。
自分でも不器用だな、と思う手つきで返信文を打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返した。そうしてできた自分なりに納得のいく文章を、少しの勇気を持って送信した。さてと……。
2:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/03(日) 23:56:37.46 :hk0qelnk0
立ち上がってうん、と伸びをして窓辺まで歩く。カーテンを開け放って、ベランダに出て外を眺めた。年末に降った雪は未だに道路に白く残されたままだ。
遠くに見えるあれは兄弟? 子供たちが朝から元気に雪遊びをしているのが目に入って、思わず笑みがこぼれた。
「私も頑張らないと」
センター試験まであと2週間。今更頑張っても何か大きく変わるとは思わないけれど、何かしていないと気持ちが落ちつかない。
だから、何度解き直したかわからない過去問に今日も向き合う事にしよう。
しっかりとやってきたことを確認しよう。いつも通りに過ごせばいい。
特別な何かを期待しないように。
× × ×
立ち上がってうん、と伸びをして窓辺まで歩く。カーテンを開け放って、ベランダに出て外を眺めた。年末に降った雪は未だに道路に白く残されたままだ。
遠くに見えるあれは兄弟? 子供たちが朝から元気に雪遊びをしているのが目に入って、思わず笑みがこぼれた。
「私も頑張らないと」
センター試験まであと2週間。今更頑張っても何か大きく変わるとは思わないけれど、何かしていないと気持ちが落ちつかない。
だから、何度解き直したかわからない過去問に今日も向き合う事にしよう。
しっかりとやってきたことを確認しよう。いつも通りに過ごせばいい。
特別な何かを期待しないように。
× × ×
3:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/03(日) 23:57:56.19 :hk0qelnk0
机に向かっていると、またメールが届いた。小町さんからだった。
『雪乃さんお誕生日おめでとうございます☆ ごみ……間違えました! 兄からも何かするように言っておきますのでお楽しみに!』
相変らず兄妹仲が良さそうで安心する。どこかの家とは大違いねと、少しだけ羨ましく思った。じっと、メールの本文、そのさらに後方を無言で読み返す。
『兄からも何かするように言っておきますのでお楽しみに!』
とくん、と心臓が跳ねた。急に暑く感じて、ぱたぱたと手の平であおぐけれど、それでも顔の熱は引いてはくれなかった。
意識しないように、そのことには触れずに返信文を打ち込んで送信した。
「……ちょっと素っ気なかったかしら?」
机に向かっていると、またメールが届いた。小町さんからだった。
『雪乃さんお誕生日おめでとうございます☆ ごみ……間違えました! 兄からも何かするように言っておきますのでお楽しみに!』
相変らず兄妹仲が良さそうで安心する。どこかの家とは大違いねと、少しだけ羨ましく思った。じっと、メールの本文、そのさらに後方を無言で読み返す。
『兄からも何かするように言っておきますのでお楽しみに!』
とくん、と心臓が跳ねた。急に暑く感じて、ぱたぱたと手の平であおぐけれど、それでも顔の熱は引いてはくれなかった。
意識しないように、そのことには触れずに返信文を打ち込んで送信した。
「……ちょっと素っ気なかったかしら?」
4:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/03(日) 23:59:29.90 :hk0qelnk0
たった今手拍子で送ってしまったメールを見返す。
そんなことをしても、いまさら何も出来ないというのに。
学校で会った時に謝ればいい。でも、何て言えば良いのだろう?素っ気ないメールを送ってしまってごめんなさい? ううん、そんなことをいきなり言われてもきっと小町さんは困ってしまう。だから……どうしようか?
かぶりを振って勉強を再開することにした。
瞬間、携帯が震える。また小町さんからだった。
『はい! 今度小町も部室におじゃまするので、その時に誕プレ持って行きますからね。そちらもお楽しみに~』
「ありがとう、小町さん」
それは、きっと色々なことに対して。
携帯を机の上に丁寧に置くと、今度こそ勉強を再開した。
× × ×
たった今手拍子で送ってしまったメールを見返す。
そんなことをしても、いまさら何も出来ないというのに。
学校で会った時に謝ればいい。でも、何て言えば良いのだろう?素っ気ないメールを送ってしまってごめんなさい? ううん、そんなことをいきなり言われてもきっと小町さんは困ってしまう。だから……どうしようか?
かぶりを振って勉強を再開することにした。
瞬間、携帯が震える。また小町さんからだった。
『はい! 今度小町も部室におじゃまするので、その時に誕プレ持って行きますからね。そちらもお楽しみに~』
「ありがとう、小町さん」
それは、きっと色々なことに対して。
携帯を机の上に丁寧に置くと、今度こそ勉強を再開した。
× × ×
5:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:01:00.64 :bBjfBo6F0
ふと外を見れば、もう薄暗い。
冬至を過ぎたとはいえまだ1月。日が伸びたなと感じるには、もう少し時間がかかりそうだ。
「紅茶でも飲もうかしら」
そうひとりごちて、ひとり分だけの準備を始める。慣れたものだ。慣れているはずなのに、どこか寂しい。机の上の携帯を見やる。通知はなかった。
らしくない。そう思っても、どうしても気になる。
勉強中も、休憩中も、こうして紅茶を淹れている時も。ついつい気にしてしまう。
「らしくないわ、本当に」
はぁと息を吐いて、マグカップで淹れたミルクティーを啜っていると、断続的な振動音が聞こえる。メールではなく電話だった。
必死に気持ちを落ちつけて画面を確認すると、なんのことはない。深い溜息の後、通話ボタンを押した。
ふと外を見れば、もう薄暗い。
冬至を過ぎたとはいえまだ1月。日が伸びたなと感じるには、もう少し時間がかかりそうだ。
「紅茶でも飲もうかしら」
そうひとりごちて、ひとり分だけの準備を始める。慣れたものだ。慣れているはずなのに、どこか寂しい。机の上の携帯を見やる。通知はなかった。
らしくない。そう思っても、どうしても気になる。
勉強中も、休憩中も、こうして紅茶を淹れている時も。ついつい気にしてしまう。
「らしくないわ、本当に」
はぁと息を吐いて、マグカップで淹れたミルクティーを啜っていると、断続的な振動音が聞こえる。メールではなく電話だった。
必死に気持ちを落ちつけて画面を確認すると、なんのことはない。深い溜息の後、通話ボタンを押した。
6:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:02:09.70 :bBjfBo6F0
「もしもし」
『ひゃっはろー雪乃ちゃん!』
「姉さん、うるさいわ。少し静かにしなさい」
『えーひどーい。第一声がそれ? お姉ちゃん悲しいなー』
「用件を言いなさい。今勉強中だから、何もなければ切るわ」
『雪乃ちゃんなら今更勉強しなくても大丈夫だと思うけどなぁ。あ、用件はあるから切らないでね』
実家に顔を見せなさいとかそういった類だろうなと、おおよそ見当はつく。
「それで、なにかしら?」
「もしもし」
『ひゃっはろー雪乃ちゃん!』
「姉さん、うるさいわ。少し静かにしなさい」
『えーひどーい。第一声がそれ? お姉ちゃん悲しいなー』
「用件を言いなさい。今勉強中だから、何もなければ切るわ」
『雪乃ちゃんなら今更勉強しなくても大丈夫だと思うけどなぁ。あ、用件はあるから切らないでね』
実家に顔を見せなさいとかそういった類だろうなと、おおよそ見当はつく。
「それで、なにかしら?」
7:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:03:38.78 :bBjfBo6F0
『誕生日。おめでとうね、雪乃ちゃん』
素直に驚いた。
予想の斜め上だったから。姉さんがこれだけわかりやすい言葉を掛けてくれることが、久しくなかったから。電話の向こう側からは退屈そうな声が聞こえてくる。
『雪乃ちゃーん?おーい』
「……なんでもないわ。ありがとう、姉さん」
『んふふ~いいっていいって。今年はどうするの? こっち帰ってくる?』
「いえ、帰らないわ。ここの方が集中できるし」
『ふーん、そ。それでもいいけど。今年度中に1回くらいは顔見せなさい。もう高校も卒業するんだから』
「ええ。正直気は乗らないけれど」
『お子様みたいなこと言わないの。……あっ、そうそう』
「なに?」
『誕生日。おめでとうね、雪乃ちゃん』
素直に驚いた。
予想の斜め上だったから。姉さんがこれだけわかりやすい言葉を掛けてくれることが、久しくなかったから。電話の向こう側からは退屈そうな声が聞こえてくる。
『雪乃ちゃーん?おーい』
「……なんでもないわ。ありがとう、姉さん」
『んふふ~いいっていいって。今年はどうするの? こっち帰ってくる?』
「いえ、帰らないわ。ここの方が集中できるし」
『ふーん、そ。それでもいいけど。今年度中に1回くらいは顔見せなさい。もう高校も卒業するんだから』
「ええ。正直気は乗らないけれど」
『お子様みたいなこと言わないの。……あっ、そうそう』
「なに?」
8:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:05:36.10 :bBjfBo6F0
うふふ、という含み笑いが聞こえてきた。今電話の向こうでどんな顔をしているかを想像すると、一刻も早く電話を切りたくなってしまう。
『いや、愛しの彼からプレゼントは貰ったのかなーって思って』
とくん、とまた心臓が跳ねた。
「……馬鹿馬鹿しい」
『ありゃ意外。愛しの彼の存在は否定しないんだ? 誰を想像しちゃったのかなー?』
「切るわね」
言って、一方的に通話終了ボタンを押してソファに沈み込む。けらけらという笑い声と一緒に「今年もよろしくね」と言っていた気がするが、気にしないことにする。
「ホントに姉さんは……もう」
机上のお気に入りのパンさんぬいぐるみを掴むと、それを優しく抱きしめた。
「……はあ」
誰を想像したのかなんて、聞かなくてもわかってるくせに。いや、わかってるからこそ聞いてきたに違いない。
だが何よりも悔しいのは、姉の予想に寸分違わぬ想像をしてしまったことだ。
ソファに鎮座する携帯電話を見やる。
通知は、まだ来ていなかった。
× × ×
うふふ、という含み笑いが聞こえてきた。今電話の向こうでどんな顔をしているかを想像すると、一刻も早く電話を切りたくなってしまう。
『いや、愛しの彼からプレゼントは貰ったのかなーって思って』
とくん、とまた心臓が跳ねた。
「……馬鹿馬鹿しい」
『ありゃ意外。愛しの彼の存在は否定しないんだ? 誰を想像しちゃったのかなー?』
「切るわね」
言って、一方的に通話終了ボタンを押してソファに沈み込む。けらけらという笑い声と一緒に「今年もよろしくね」と言っていた気がするが、気にしないことにする。
「ホントに姉さんは……もう」
机上のお気に入りのパンさんぬいぐるみを掴むと、それを優しく抱きしめた。
「……はあ」
誰を想像したのかなんて、聞かなくてもわかってるくせに。いや、わかってるからこそ聞いてきたに違いない。
だが何よりも悔しいのは、姉の予想に寸分違わぬ想像をしてしまったことだ。
ソファに鎮座する携帯電話を見やる。
通知は、まだ来ていなかった。
× × ×
9:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:07:22.63 :bBjfBo6F0
夕食は冷蔵庫に残ったもので簡単に済ませた。
本来であればもう少し机に向かうところだけれど、今日はどうにも手に付かなかった。
原因はわかっている。けれど、その原因を自ら除くことが出来ない。やる、やらないではなく、出来ない。なら私にはどうしようもない。そんな諦めの境地だった。
お風呂にでも入ろう。そして本を読んでもう寝てしまおう。
今日何度したかわからない溜息をもう1回吐き出すと、携帯から長い振動音が聞こえた。
「もしもし」
『ゆきのんやっはろー。今だいじょうぶ?』
「こんばんは。ええ、問題ないわ」
『ありがと。あっ、改めてだけど誕生日おめでとう』
「……ありがとう、由比ヶ浜さん」
メールに加えて電話までしてくれる。そんな彼女の優しさに胸が温かくなった。
夕食は冷蔵庫に残ったもので簡単に済ませた。
本来であればもう少し机に向かうところだけれど、今日はどうにも手に付かなかった。
原因はわかっている。けれど、その原因を自ら除くことが出来ない。やる、やらないではなく、出来ない。なら私にはどうしようもない。そんな諦めの境地だった。
お風呂にでも入ろう。そして本を読んでもう寝てしまおう。
今日何度したかわからない溜息をもう1回吐き出すと、携帯から長い振動音が聞こえた。
「もしもし」
『ゆきのんやっはろー。今だいじょうぶ?』
「こんばんは。ええ、問題ないわ」
『ありがと。あっ、改めてだけど誕生日おめでとう』
「……ありがとう、由比ヶ浜さん」
メールに加えて電話までしてくれる。そんな彼女の優しさに胸が温かくなった。
10:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:08:45.32 :bBjfBo6F0
『うんうん。でね? この前メールで話したかもだけど、部室でパーティしようかってなってるんだけど』
「でも迷惑、ではないかしら? みんな受験勉強で忙しいだろうし」
『ぜんぜん迷惑じゃないよ。でもちょっとだけその辺の事情も考えて、始業式の日はどうかなって思ってるんだけど』
「始業式?」
『うん。その日って授業ないから午前中で終わるでしょ? だから午後から始めて早めに解散ってのはどう?』
「私は構わないけれど……その、本当にいいの?」
『大丈夫だってば。あたしにまかせて!』
「……ええ。ありがとう」
ふふっ、と短い笑い声が聞こえる。思わず首を傾げた。
『うんうん。でね? この前メールで話したかもだけど、部室でパーティしようかってなってるんだけど』
「でも迷惑、ではないかしら? みんな受験勉強で忙しいだろうし」
『ぜんぜん迷惑じゃないよ。でもちょっとだけその辺の事情も考えて、始業式の日はどうかなって思ってるんだけど』
「始業式?」
『うん。その日って授業ないから午前中で終わるでしょ? だから午後から始めて早めに解散ってのはどう?』
「私は構わないけれど……その、本当にいいの?」
『大丈夫だってば。あたしにまかせて!』
「……ええ。ありがとう」
ふふっ、と短い笑い声が聞こえる。思わず首を傾げた。
11:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:10:22.17 :bBjfBo6F0
「どうしたの?」
『ううん何でもないよ。 ところで今日どうだった? なにしてたの?』
「特に変わらないわ。朝から勉強して、それだけね」
『ほえー1日勉強してたんだ。偉いなーさすがゆきのん』
「……由比ヶ浜さん。まさか勉強していないの?」
『えっ! いやほら今日はちょっと疲れちゃったし……お正月だし……』
「言い訳しない。……本当に大丈夫なのかしら?」
『だ、大丈夫大丈夫勉強するから。…………でも明日からじゃダメ?』
「今日からしなさい。センターまで時間もないし。それに……目標があるんでしょう?」
『……そうだよね、うん。わかった頑張るよあたし』
「ええ。頑張りなさい」
『うん。それじゃ、おやすみゆきのん』
「どうしたの?」
『ううん何でもないよ。 ところで今日どうだった? なにしてたの?』
「特に変わらないわ。朝から勉強して、それだけね」
『ほえー1日勉強してたんだ。偉いなーさすがゆきのん』
「……由比ヶ浜さん。まさか勉強していないの?」
『えっ! いやほら今日はちょっと疲れちゃったし……お正月だし……』
「言い訳しない。……本当に大丈夫なのかしら?」
『だ、大丈夫大丈夫勉強するから。…………でも明日からじゃダメ?』
「今日からしなさい。センターまで時間もないし。それに……目標があるんでしょう?」
『……そうだよね、うん。わかった頑張るよあたし』
「ええ。頑張りなさい」
『うん。それじゃ、おやすみゆきのん』
12:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:12:00.92 :bBjfBo6F0
おやすみなさい。そう言い残して電話を切った。
彼女との付き合いももうすぐ2年。あの頃よりきちんと成長したと思えば、どこか抜けていて。けれど、彼女も私にないものを持っている。それに随分と助けられてきた。
だから、今日言ったありがとうだけじゃきっとまだ足りない。由比ヶ浜さんに言えば否定されてしまうのだろうけれど。
笑みが自然とこぼれる。
今日は良く眠れそう、そんなことを考えていたら再び手の中の携帯が震えた。
「また? ……これは?」
登録外。それを意味する数字の羅列に眉根が寄る。番号を交換した人間は限られているし、数も少ないから登録漏れをしていることもないはずだった。
訝しんでいる間も振動は続いていたが、やがて途絶えた。
番号を見つめる。少しの不安と、大いなる期待を込めて。気が付けば番号をタップして耳に押し当てていた。
呼び出し音が聞こえる。相手は3コール目で電話に出た。
おやすみなさい。そう言い残して電話を切った。
彼女との付き合いももうすぐ2年。あの頃よりきちんと成長したと思えば、どこか抜けていて。けれど、彼女も私にないものを持っている。それに随分と助けられてきた。
だから、今日言ったありがとうだけじゃきっとまだ足りない。由比ヶ浜さんに言えば否定されてしまうのだろうけれど。
笑みが自然とこぼれる。
今日は良く眠れそう、そんなことを考えていたら再び手の中の携帯が震えた。
「また? ……これは?」
登録外。それを意味する数字の羅列に眉根が寄る。番号を交換した人間は限られているし、数も少ないから登録漏れをしていることもないはずだった。
訝しんでいる間も振動は続いていたが、やがて途絶えた。
番号を見つめる。少しの不安と、大いなる期待を込めて。気が付けば番号をタップして耳に押し当てていた。
呼び出し音が聞こえる。相手は3コール目で電話に出た。
13:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:13:19.18 :bBjfBo6F0
『……もしもし』
声を聞いた途端、心臓が跳ねる。
『もしもし? 雪ノ下か』
息を吸って、大きく吐く。努めて平静に。普段と変わらぬように。
「先ほどお電話をいただいたのですが、どちらさまですか?」
『俺だよ俺』
「誰?」
『俺だ。比企谷だ』
「……誰?」
『おい泣くよ? 泣いちゃうよ? つーかお前、最初の時点でわかってただろ』
こんなやり取りが楽しくて仕方がない。ひとしきり声を殺して笑うと、目尻に浮かんだ涙を拭った。
『……もしもし』
声を聞いた途端、心臓が跳ねる。
『もしもし? 雪ノ下か』
息を吸って、大きく吐く。努めて平静に。普段と変わらぬように。
「先ほどお電話をいただいたのですが、どちらさまですか?」
『俺だよ俺』
「誰?」
『俺だ。比企谷だ』
「……誰?」
『おい泣くよ? 泣いちゃうよ? つーかお前、最初の時点でわかってただろ』
こんなやり取りが楽しくて仕方がない。ひとしきり声を殺して笑うと、目尻に浮かんだ涙を拭った。
14:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:14:47.03 :bBjfBo6F0
「冗談よ。こんばんは、比企谷くん」
『おお。悪いな夜分に』
「いえ、気にしないでいいわ。それより、なぜこの番号を知っているのかしら?」
『あー小町に聞いた』
「そう。小町さんから」
そうだろうなと予想はしていた。けれど、まさか電話が来るとは思わなかった。
意外な心境で、彼の言葉を待った。
『えっと、あれだ。用件なんだけどな』
「ええ」
『……おめでとさん』
顔が熱くなる。嬉しかったけれど、その言葉に満足できず、彼に対していじわるをしたくなってしまう。
「冗談よ。こんばんは、比企谷くん」
『おお。悪いな夜分に』
「いえ、気にしないでいいわ。それより、なぜこの番号を知っているのかしら?」
『あー小町に聞いた』
「そう。小町さんから」
そうだろうなと予想はしていた。けれど、まさか電話が来るとは思わなかった。
意外な心境で、彼の言葉を待った。
『えっと、あれだ。用件なんだけどな』
「ええ」
『……おめでとさん』
顔が熱くなる。嬉しかったけれど、その言葉に満足できず、彼に対していじわるをしたくなってしまう。
15:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:16:23.70 :bBjfBo6F0
「ええ。あけましておめでとう」
『いや、それもそうだけど。そうじゃなくてだな』
「でも、おめでとうだけではわからないわ」
『……お前遊んでる?』
「ふふっ。さあ、どうかしら?」
暫し沈黙。やがて観念したように息を吐いたのが電話越しに聞こえた。
『あー雪ノ下』
「なにかしら?」
『ちょっと遅くなって悪かったけど……今日誕生日だろ? だから、おめでとう』
頬が緩むのを抑えられない。
ただこの言葉を聞きたかった。他でもない、ぶっきらぼうな彼の口から。
「ありがとう比企谷くん。それと」
『なんだ?』
そして私も、あらかじめ準備していた言葉を返そう。小さな声で囁くように。
「今年も、よろしく」
× × ×
「ええ。あけましておめでとう」
『いや、それもそうだけど。そうじゃなくてだな』
「でも、おめでとうだけではわからないわ」
『……お前遊んでる?』
「ふふっ。さあ、どうかしら?」
暫し沈黙。やがて観念したように息を吐いたのが電話越しに聞こえた。
『あー雪ノ下』
「なにかしら?」
『ちょっと遅くなって悪かったけど……今日誕生日だろ? だから、おめでとう』
頬が緩むのを抑えられない。
ただこの言葉を聞きたかった。他でもない、ぶっきらぼうな彼の口から。
「ありがとう比企谷くん。それと」
『なんだ?』
そして私も、あらかじめ準備していた言葉を返そう。小さな声で囁くように。
「今年も、よろしく」
× × ×
16:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:18:54.16 :bBjfBo6F0
満ち足りた気持ちで文庫本を閉じた。
立ち上がって文庫本をしまった時にふと、枕元に置いた携帯が目に入った。
「……そうね」
電話履歴を眺める。一番上には登録外の番号があった。それを選択して編集で文字を打ち込んでいく。
「登録、と」
履歴の一番上。ただの数字だったものが「比企谷くん」に変わったことを確認して携帯を閉じた。
電気を消して、もぞもぞと布団に入るとゆっくりと目を閉じる。すると、たちまちに意識が暗闇に吸い取られていく。
「おやすみなさい」
カーテンから漏れる月光が、まるで木漏れ日のようにゆらゆらと揺らめいていた。
<了>
満ち足りた気持ちで文庫本を閉じた。
立ち上がって文庫本をしまった時にふと、枕元に置いた携帯が目に入った。
「……そうね」
電話履歴を眺める。一番上には登録外の番号があった。それを選択して編集で文字を打ち込んでいく。
「登録、と」
履歴の一番上。ただの数字だったものが「比企谷くん」に変わったことを確認して携帯を閉じた。
電気を消して、もぞもぞと布団に入るとゆっくりと目を閉じる。すると、たちまちに意識が暗闇に吸い取られていく。
「おやすみなさい」
カーテンから漏れる月光が、まるで木漏れ日のようにゆらゆらと揺らめいていた。
<了>
17:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:21:07.57 :bBjfBo6F0
超短編ですので以上で終わりです
ありがとうございました
超短編ですので以上で終わりです
ありがとうございました
18:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:22:58.98 :bAjdT3FWo
乙
ゆきのん視点は珍しいな
乙
ゆきのん視点は珍しいな
19:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:25:49.77 :JF2bOCV+0
乙
ゆきのんかわええ……
乙
ゆきのんかわええ……
20:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 00:38:06.35 :D3KUhGURo
乙です
次回作も期待
乙です
次回作も期待
21:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします:2016/01/04(月) 10:40:20.89 :9ic+ERbnO
いい…
いい…
22: ◆.XibMUKIvI:2016/01/04(月) 22:31:53.32 :bBjfBo6F0
トリップつけ忘れ
HTML申請してきます
トリップつけ忘れ
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