1: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:39:24.92 :OxvHpGT1o
・モバマス・高垣楓さんのSS
・超短い
・総選挙応援企画
・モバマス・高垣楓さんのSS
・超短い
・総選挙応援企画
2: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:41:06.81 :OxvHpGT1o
ひとり。窓の外を見る。
眼下に広がる街並みの灯りに、私は息をひとつ。
心が、泡立つ。
トラブルがあったからと、プロデューサーさんは一足先に東京へ帰ってしまった。
私は翌日の仕事をこなし、単身戻ることに。
今日、ひとり。
そんなことはよくあることだと、たぶん誰もが言うと思う。
でも今の私には、その事実が肌に痛い。
ひとり。窓の外を見る。
眼下に広がる街並みの灯りに、私は息をひとつ。
心が、泡立つ。
トラブルがあったからと、プロデューサーさんは一足先に東京へ帰ってしまった。
私は翌日の仕事をこなし、単身戻ることに。
今日、ひとり。
そんなことはよくあることだと、たぶん誰もが言うと思う。
でも今の私には、その事実が肌に痛い。
3: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:42:23.55 :OxvHpGT1o
シンデレラガール。
年にひとりだけ選ばれる、栄え。
私たちアイドルはみな、そこを目指しているといっても過言ではないだろう。
それだけに。
この時期はどこにいても、ピリピリとした空気が辺りを支配している。
私は眼下に広がる灯りを眺めながら、ドライジンを一口。
焼けるような熱さを喉に感じ、私はひとときの熱にたゆたう。
そしてお守りのネックレスを首元から引きずり出し、左手で握りしめた。
そこには、チープなプラスチックの指輪。握りこめば簡単に壊してしまいそうなそれを、私は大事にしている。
つぶやく。誰もいない、私だけの部屋で。
「プロデューサーさん」
と。
シンデレラガール。
年にひとりだけ選ばれる、栄え。
私たちアイドルはみな、そこを目指しているといっても過言ではないだろう。
それだけに。
この時期はどこにいても、ピリピリとした空気が辺りを支配している。
私は眼下に広がる灯りを眺めながら、ドライジンを一口。
焼けるような熱さを喉に感じ、私はひとときの熱にたゆたう。
そしてお守りのネックレスを首元から引きずり出し、左手で握りしめた。
そこには、チープなプラスチックの指輪。握りこめば簡単に壊してしまいそうなそれを、私は大事にしている。
つぶやく。誰もいない、私だけの部屋で。
「プロデューサーさん」
と。
4: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:43:54.12 :OxvHpGT1o
確か、どこか地方でのロケだった。
移動の合間に寄った駄菓子屋さん。
ほどよい加減に大人な私とプロデューサーさんは、懐かしさに酔っていた。
見かけたのは、おもちゃが当たるくじ。
「プロデューサーさん」
「ん? なんです?」
「ちょっと引いてみません? ロケの今後の運試しに」
ふたりでえいや、と。一発勝負。
プロデューサーさんはそこそこ大きなスーパーボール。私はプラスチックの指輪。
「楓さんは、小吉くらいですかね?」
「いえ?」
苦笑するプロデューサーさんに私は答えた。
「こうすれば……」
指輪をプロデューサーさんに預け、私は左手を差し出す。そして、言ったのだ。
「私に、嵌めてください」
と。
確か、どこか地方でのロケだった。
移動の合間に寄った駄菓子屋さん。
ほどよい加減に大人な私とプロデューサーさんは、懐かしさに酔っていた。
見かけたのは、おもちゃが当たるくじ。
「プロデューサーさん」
「ん? なんです?」
「ちょっと引いてみません? ロケの今後の運試しに」
ふたりでえいや、と。一発勝負。
プロデューサーさんはそこそこ大きなスーパーボール。私はプラスチックの指輪。
「楓さんは、小吉くらいですかね?」
「いえ?」
苦笑するプロデューサーさんに私は答えた。
「こうすれば……」
指輪をプロデューサーさんに預け、私は左手を差し出す。そして、言ったのだ。
「私に、嵌めてください」
と。
5: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:44:50.95 :OxvHpGT1o
チープなおもちゃのおかげだったのかもしれない。
ひかりもしないその指輪は、薬指にぴったりとフィットする。
「いや、これは」
さすがに動揺するプロデューサーさん。私は、彼のために微笑み。
「身に余る光栄です」
そう、答えたのだった。
おふざけにしては、やり過ぎだったと思う。でも。
「これは、ふたりだけの秘密ですね」
児戯と呼ぶにはあまりに大人なふたり。
そんなふたりだけの空間は今でも、覚えている。
チープなおもちゃのおかげだったのかもしれない。
ひかりもしないその指輪は、薬指にぴったりとフィットする。
「いや、これは」
さすがに動揺するプロデューサーさん。私は、彼のために微笑み。
「身に余る光栄です」
そう、答えたのだった。
おふざけにしては、やり過ぎだったと思う。でも。
「これは、ふたりだけの秘密ですね」
児戯と呼ぶにはあまりに大人なふたり。
そんなふたりだけの空間は今でも、覚えている。
6: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:45:57.17 :OxvHpGT1o
それ以降、ゲン担ぎというわけではないけれど私は、なにか大きな仕事に取り掛かるたび、その指輪に祈るのだ。
きっと。きっとうまくいく。
彼も知らない、私だけのルーチンワーク。
プロデューサーさんの不断の努力と、それに報いたいと思う私の努力。
大きくなっていく。
仕事のレベルも。キャパシティも。そして、知名度も。
彼のおかげで私は、シンデレラガールの選挙順位を少しずつ伸ばしていった。
純粋に嬉しかった。
報いていると、実感していた。
でも。
それ以降、ゲン担ぎというわけではないけれど私は、なにか大きな仕事に取り掛かるたび、その指輪に祈るのだ。
きっと。きっとうまくいく。
彼も知らない、私だけのルーチンワーク。
プロデューサーさんの不断の努力と、それに報いたいと思う私の努力。
大きくなっていく。
仕事のレベルも。キャパシティも。そして、知名度も。
彼のおかげで私は、シンデレラガールの選挙順位を少しずつ伸ばしていった。
純粋に嬉しかった。
報いていると、実感していた。
でも。
7: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:48:08.97 :OxvHpGT1o
一年前。私は選挙で二位という順位を得た。
充実感を抱え、私は事務所に顔を出す。プロデューサーさんに会いたい、その想いで。
「あら?」
彼は、いつもの机にいなかった。
「ちひろさん、プロデューサーさんは?」
「ああ、たぶんいつものコーヒータイムじゃないですか?」
私の問いにちひろさんは答えた。
ああ、そっか。いつもの自販機でいつもの缶コーヒーかしら。
事務室を抜け、休憩コーナーへ。
いた。
「プロデューサーさん」
と声をかけようとしたその時、私の足は歩むのをやめる。
声が、出せない。
私は咄嗟に、彼の死角に隠れた。
一年前。私は選挙で二位という順位を得た。
充実感を抱え、私は事務所に顔を出す。プロデューサーさんに会いたい、その想いで。
「あら?」
彼は、いつもの机にいなかった。
「ちひろさん、プロデューサーさんは?」
「ああ、たぶんいつものコーヒータイムじゃないですか?」
私の問いにちひろさんは答えた。
ああ、そっか。いつもの自販機でいつもの缶コーヒーかしら。
事務室を抜け、休憩コーナーへ。
いた。
「プロデューサーさん」
と声をかけようとしたその時、私の足は歩むのをやめる。
声が、出せない。
私は咄嗟に、彼の死角に隠れた。
8: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:49:54.82 :OxvHpGT1o
プロデューサーさんはうつむいて、コーヒー缶を握りしめる。
震える彼の手。そして。
みしり。手の中のコーヒー缶がつぶれる。
うつむいたまま彼は、絞り出すようにつぶやいた。
「悔しい」
と。一言。
ああ、何ということだろう。
私は、気がついてしまった。
そうだ。プロデューサー業に勤しむ人ならみな、頂点を目指さないはずがない。
まして、もう少しで手の届くところだったのだ。
彼との付き合いは短くはない。いや、長いと言える。
プロデューサーさんは長い間努力したのだ。
でも、今回も届かなかった。
その場でへなへなとへたり込んでしまう私。
落涙。
力の入らない手で、私はネックレスに通した、あのプラスチックの指輪を取り出した。
そして。
「ごめんなさい……」
と、小声でつぶやいた。
プロデューサーさんはうつむいて、コーヒー缶を握りしめる。
震える彼の手。そして。
みしり。手の中のコーヒー缶がつぶれる。
うつむいたまま彼は、絞り出すようにつぶやいた。
「悔しい」
と。一言。
ああ、何ということだろう。
私は、気がついてしまった。
そうだ。プロデューサー業に勤しむ人ならみな、頂点を目指さないはずがない。
まして、もう少しで手の届くところだったのだ。
彼との付き合いは短くはない。いや、長いと言える。
プロデューサーさんは長い間努力したのだ。
でも、今回も届かなかった。
その場でへなへなとへたり込んでしまう私。
落涙。
力の入らない手で、私はネックレスに通した、あのプラスチックの指輪を取り出した。
そして。
「ごめんなさい……」
と、小声でつぶやいた。
9: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:51:05.06 :OxvHpGT1o
心が揺れ動く。
涙がこぼれる。
私もプロデューサーさんも努力している。誰よりも、きっと。
その居心地の良さに、私は目を曇らせていた。
そして、私は気づいてしまった。。
私は彼に、恋慕している、と。
私がこれほど努力できるのも、それを楽しいと思えるのも。
それは、恋心のなせる、業。
泡立つ。
私はプロデューサーさんが気づく前に立ち上がり、ふらふらとその場から去る。
今、彼に会うわけにいかない。どんな顔をして会えばいいというのか。
ひとり部屋に戻り、私は気付にドライジンをワンショット、あおった。
涙をぬぐう。そして、心を決める。
彼の想いを。私の想いを。真実にするために。
新たな一年を、始めよう、と。
心が揺れ動く。
涙がこぼれる。
私もプロデューサーさんも努力している。誰よりも、きっと。
その居心地の良さに、私は目を曇らせていた。
そして、私は気づいてしまった。。
私は彼に、恋慕している、と。
私がこれほど努力できるのも、それを楽しいと思えるのも。
それは、恋心のなせる、業。
泡立つ。
私はプロデューサーさんが気づく前に立ち上がり、ふらふらとその場から去る。
今、彼に会うわけにいかない。どんな顔をして会えばいいというのか。
ひとり部屋に戻り、私は気付にドライジンをワンショット、あおった。
涙をぬぐう。そして、心を決める。
彼の想いを。私の想いを。真実にするために。
新たな一年を、始めよう、と。
10: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:52:17.03 :OxvHpGT1o
次の日から。
私もプロデューサーさんもなにも変わらない日々を過ごしている、ように見える。でも。
知ってしまった。違っていた。
気づいてしまったこの気持ちを押し込めて、日々を過ごすことの難しさを。
どのような状況であっても笑顔を張り付けられた、モデル時代の私はもう、いない。
プロデューサーさんは、どうなのだろう。どう、思っているのだろう。
そんな私の心持を、彼は知る由もない。
タイトロープの日々。
時間は容赦なく私たちを、シンデレラガールの舞台へと送り出していく。
そして。
次の日から。
私もプロデューサーさんもなにも変わらない日々を過ごしている、ように見える。でも。
知ってしまった。違っていた。
気づいてしまったこの気持ちを押し込めて、日々を過ごすことの難しさを。
どのような状況であっても笑顔を張り付けられた、モデル時代の私はもう、いない。
プロデューサーさんは、どうなのだろう。どう、思っているのだろう。
そんな私の心持を、彼は知る由もない。
タイトロープの日々。
時間は容赦なく私たちを、シンデレラガールの舞台へと送り出していく。
そして。
11: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:53:51.27 :OxvHpGT1o
ひとりの部屋がどことなく広すぎたから。
私はプロデューサーさんに電話を掛ける。
プルルル……プルルル…… 七度目のコールで。
「はい」
ああ。この声だけで。
私はひどく安心するのだ。
「プロデューサーさん?」
「ああ、楓さん。本当に今日はすいません」
「いえ、いいんです……クレーム、片付きました?」
「はい。おかげさまで」
お互いの状況を確認する私たち。
電話をしながら、私は指輪をもてあそぶ。
この一年、指輪の奇蹟にすがっていたせいか、プラスチックのそれは少しやせたように思える。
まるで、私自身のように。
ひとりの部屋がどことなく広すぎたから。
私はプロデューサーさんに電話を掛ける。
プルルル……プルルル…… 七度目のコールで。
「はい」
ああ。この声だけで。
私はひどく安心するのだ。
「プロデューサーさん?」
「ああ、楓さん。本当に今日はすいません」
「いえ、いいんです……クレーム、片付きました?」
「はい。おかげさまで」
お互いの状況を確認する私たち。
電話をしながら、私は指輪をもてあそぶ。
この一年、指輪の奇蹟にすがっていたせいか、プラスチックのそれは少しやせたように思える。
まるで、私自身のように。
12: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:55:08.48 :OxvHpGT1o
会話が、止まる。互いの息遣いが、私の心を苦しくさせる。
外は、街灯り。にじむ視界が私を狂わせる。
「プロデューサー、さん」
「……どうしました?」
私は、告げてはいけないと歯止めをかけてきた言葉を、口にする。
「苦しいです……さみしいです……」
「……」
「……好きなんです。どうしようもなく」
一度告げた言葉は元へ戻ることはない。私はもう限界だった。そして、彼は。
「よく……解ります」
そう、応えた。
会話が、止まる。互いの息遣いが、私の心を苦しくさせる。
外は、街灯り。にじむ視界が私を狂わせる。
「プロデューサー、さん」
「……どうしました?」
私は、告げてはいけないと歯止めをかけてきた言葉を、口にする。
「苦しいです……さみしいです……」
「……」
「……好きなんです。どうしようもなく」
一度告げた言葉は元へ戻ることはない。私はもう限界だった。そして、彼は。
「よく……解ります」
そう、応えた。
13: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:56:32.34 :OxvHpGT1o
「知っている」でもなく、「そう言われても」でもなく。
ああ。
その一言で、私は理解した。
彼もまた、私を恋慕しているのだ、と。
私たちは、私たちを理解していた。
そして、細い細いこの声だけのつながりで、私たちは寄り添えた。
もう黙する必要はない。
「プロデューサーさん……私はこの一年、シンデレラになるために努力しています。あなたの、ために」
「僕は、楓さんをシンデレラにするために、努力しています。それは……あなたが好きで、あなたのためだけに向けている、そういうものなんです」
「知っている」でもなく、「そう言われても」でもなく。
ああ。
その一言で、私は理解した。
彼もまた、私を恋慕しているのだ、と。
私たちは、私たちを理解していた。
そして、細い細いこの声だけのつながりで、私たちは寄り添えた。
もう黙する必要はない。
「プロデューサーさん……私はこの一年、シンデレラになるために努力しています。あなたの、ために」
「僕は、楓さんをシンデレラにするために、努力しています。それは……あなたが好きで、あなたのためだけに向けている、そういうものなんです」
14: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:57:17.74 :OxvHpGT1o
指輪がやせていくように、お互いの心が悲鳴を上げていく、そんな一年でも。
それは。お互いに解っていてそれでなお、心を捧げたいと信じてきた日々。
「私、おもちゃの指輪でも嬉しかったんです」
だって、左手の薬指にしてくれたんですから……
シンデレラガールの発表が近づいてくる。
その時、なにかが決定的に変わる。そんな気がしている。
その時、私は。いえ。
私たちは……
指輪がやせていくように、お互いの心が悲鳴を上げていく、そんな一年でも。
それは。お互いに解っていてそれでなお、心を捧げたいと信じてきた日々。
「私、おもちゃの指輪でも嬉しかったんです」
だって、左手の薬指にしてくれたんですから……
シンデレラガールの発表が近づいてくる。
その時、なにかが決定的に変わる。そんな気がしている。
その時、私は。いえ。
私たちは……
15: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:58:00.71 :OxvHpGT1o
(おわり)
(おわり)
16: ◆eBIiXi2191ZO:2017/04/28(金) 21:59:58.19 :OxvHpGT1o
終わりです。お疲れさまでした。
少々ハーレクイン風味にしました。
頂点しか、欲しくないんです。
今年こそ。
皆様の琴線に触れれば幸いです ノシ
終わりです。お疲れさまでした。
少々ハーレクイン風味にしました。
頂点しか、欲しくないんです。
今年こそ。
皆様の琴線に触れれば幸いです ノシ