ー夜、亜耶の部屋ー

？？「ふへへ、これが夢にまで見た亜耶ちゃんの部屋ね」

？？「すーはー、すーは〜。あぁ〜良い匂い！まさに天国だわ！ここで死にたいくらい。今のうちに色々と物色させてもらいましょう」

ガチャ

亜耶「あ、あの……。すみません。どちら様でしょうか？」

？？「あ、亜耶ちゃん？！」

亜耶「私に何かご用ですか？あ、もしかして勇者部へのご依頼ですね。私達に出来る事ならなんなりと」

？？「……今、何でもって」

亜耶「え？」

？？「据え膳食わぬは女の恥！ぐへへ、さぁ亜耶ちゃん。お姉さんと気持ちいい事しましょうね〜」

亜耶「きゃっ！？な、何をするんですか？」

？？「ちょっと大人しくしましょうね〜」

亜耶「や、やめて下さい！急に人を襲ってはいけませんよ。神樹さまも悲しんでおられます……」

亜耶（芽吹先輩、助けて……！）

？？「そんな事言わないでさぁ。ちょっとだけだから。ね？」

亜耶「ひっ！こ、来ないでください！」

？？「はい。捕まえた〜」

亜耶（芽吹先輩……。取り敢えず離してもらわないと）

亜耶「ごめんなさいっ！えいっ！」

？？「ぐえっ！」ﾄﾞﾝｯ

亜耶「はー、はー……。すみません。咄嗟の事でつい突き飛ばしてしまいました。お怪我はありませんか？」

？？「…………」ｼｰﾝ

亜耶「あ、あの。大丈夫ですか？」

亜耶「……え？血？」

打ち所が悪かったのか、女は頭から大量の血を流して倒れていた。

亜耶「え？え？嘘ですよね、そんな……。私、そんなつもりじゃ……」

亜耶「と、取り敢えず息があるか確認しないと……」ｶﾞｻｺﾞｿ

？？「……………………」ｼｰﾝ

亜耶「…………お亡くなりに、なってしまいました……」

亜耶「うぅ……。ヒック……。ごめんなさい。ごめんなさい……。私、あなたの事……」

ガチャ

芽吹「亜耶ちゃん？さっき亜耶ちゃんの部屋から物音が聞こえたんだけど……」

亜耶「芽吹先輩……」

芽吹「亜耶ちゃん？」

亜耶「私、人を殺してしまいました」

芽吹「……え？」

亜耶「芽吹先輩。私、どうしたら……」

芽吹「お、落ち着いて亜耶ちゃん。一体どういう事？何があったの？」

亜耶「部屋に入ったら知らない女の人がいて、急に襲われて、それで私……。突き飛ばしてしまって、そしたら……！」

芽吹「……ハッ。もしかしてそこにいるのって」

亜耶「……はい。私が突き飛ばした拍子に、頭をぶつけてしまったようで」

芽吹（……廊下には誰もいないようね。まだ誰も物音には気づいていないみたい。取り敢えずこの部屋の鍵を掛けて）

芽吹「亜耶ちゃん。この事、誰かに話した？」

亜耶「いえ。芽吹先輩が初めてです」

芽吹「そう」

亜耶「あの、私！自首してきます！」

芽吹「駄目よ！亜耶ちゃん！」

亜耶「え？」

芽吹「……私が何とかするから。亜耶ちゃんは何も心配しないで」

亜耶「でも、そんな！悪い事をしてしまったのに、それを黙っているなんて。神樹さまにもこの人にも申し訳ないです。それに、芽吹先輩にご迷惑をお掛けするわけには……」

芽吹「大丈夫……。大丈夫だから亜耶ちゃん。私が何とかするから……」

亜耶「でも、私！」

芽吹「いいから！」

亜耶「ヒッ！」ﾋﾞｸｯ

芽吹「あ、ごめんなさい。……でも、本当に大丈夫だから。私に任せて、亜耶ちゃんはゆっくり休んでて。今日は私のベッドで寝ていいから」

亜耶「芽吹先輩……」

芽吹「亜耶ちゃん、大好きよ。何があっても、私が亜耶ちゃんを守るから」ﾀﾞｷｯ

亜耶「め、芽吹先輩。苦しいです……」ｷﾞｭ

芽吹「……私が、亜耶ちゃんを守らないと……」

ー深夜、風呂場ー

芽吹「…………」ｷﾞｺｷﾞｺ

芽吹「…………」ｶﾞﾝｶﾞﾝ

芽吹「…………」ｼﾞｬﾊﾞｼﾞｬﾌﾞ

芽吹「……ふぅ。まさか手先の器用さがこんな事に活きるとはね」

芽吹「亜耶ちゃんが寝ている間に、全部終わらせないと……」

芽吹「人を解体するのって、思ったより大変ね。量も結構あるし、どこに棄てようかしら」

芽吹「そうだ、確か近くに球子がいつも登っている山があるわね。そこに埋めましょう」

芽吹「ボストンバッグとキャリーケースで足りるかしら。1人で運ぶのは大変ね。でも、亜耶ちゃんの為だもの。やらなきゃ」

芽吹「もうすぐ夜が明けるから急がないと」

ー夜明け前、宿舎前にてー

芽吹「…………」ｽﾀｽﾀ

雀「……あれ？メブ？こんな時間にどこ行くの？」

芽吹「雀！？雀こそどうしたのよ。こんな朝早くに起きるような殊勝な性格じゃないでしょ？」

雀「失礼な！私だって早起きする事くらいあるよ〜。まぁ今日は偶然目が冴えただけだけど」

芽吹「そう。まだ本物の雀だって鳴いていない時間なのだから、もうちょっと寝ててもいいのよ」

雀「メブがそんな事言うなんて珍しい……。いつもだったら「早く起きた分、いつもより訓練が出来るわよ！」って言って無理矢理にでも引っ張っていくのに」

芽吹「そ、そうかしら」

雀「え！まさか自覚なし？！」

芽吹「うるさいわね、雀。そんなに訓練が好きなら付き合ってあげても良いのよ」

雀「めめめ滅相もございません！それじゃあここらで小雀はチュンチュンさせて頂きますので、はい」

芽吹「……相変わらず逃げ足だけは速いんだから」ﾊｧ

芽吹「……でも良かった。この鞄の中身には気付いていないみたいね。焼き鳥にしなくて済んだわ」

芽吹「さて、さっさと埋めてしまいましょう」

ー放課後、勇者部室ー

芽吹（結局、今日は一日中気が立って授業や友達との会話に全く集中出来なかったわ。亜耶ちゃん、大丈夫かしら……）

友奈「……でね。そしたら東郷さんが……。芽吹ちゃんはどう思う？」

芽吹「え？……あ、ごめんなさい。ボーッとしててよく聞こえなかったわ」

友奈「いいよいいよ！あのね、東郷さんがね」

風「……そうなのよ。樹がしたいって」

芽吹「死体？！」

棗「？どうした？芽吹もしたいのか？サザエの壺焼き大会」

芽吹「……あ、いえ。すみません、何でもないです」

風・棗「？？」

友奈「大丈夫？芽吹ちゃん」

芽吹「え、えぇ。大丈夫よ。何でもないわ」

芽吹（いけない……。動揺が行動に現れているわ。気を付けないと）

夏凜「そういえば、今日亜耶は一緒じゃないの？」

芽吹「えぇ。亜耶ちゃんはちょっと体調を崩しちゃって今日は休んでいるわ」

友奈「えぇ〜！じゃあお見舞いに行かないと！」

芽吹「駄目よ！」

友奈「え？」

芽吹「あ、いや。お昼休みに様子を見に行ったら元気そうだったし、亜耶ちゃんも「お見舞いはいい」って言ってたから。だから心配しないで」

友奈「そっかー。亜耶ちゃん治ったんだね。元気が一番だよ！」

東郷「そうね、友奈ちゃん。はい、ぼた餅食べる？」

芽吹（ふぅ。何とか乗り切ったようね）

園子「………………」

雀「あ、そういえばメブ。今朝聞きそびれちゃったけど、あんな早い時間にどこ行ってたの？なんか荷物も多そうだったけど」

芽吹「え、あれは……。そう！訓練よ、訓練！朝から体を動かすと気持ち良いしね。荷物は、あれよ。ダンベルとかの重りが沢山入っているのよ」

若葉「ほぉ。朝から訓練とは感心だな。流石は芽吹だ。今度私もその訓練とやらに参加させてはもらえないだろうか」

芽吹「え、えぇ。勿論よ」

芽吹（まずい事になったわね……。でもこれで今朝の件は大丈夫な筈）

友奈「芽吹ちゃん大丈夫？何だか顔色悪いよ？」

芽吹「え？そ、そうかしら？私は普通よ。いつも通り」

友奈「本当に？なんだか殺気立ってるっていうか……」

球子「確かに結城の言う通りだな！そう、まるで……人を殺した後みたいに」

芽吹「そ、そんな訳ないじゃない！」

杏「もぉ〜、そうだよタマッち先輩。物騒な事言わないでよ。ほら、芽吹さんに謝って」

球子「あ〜、悪い悪い。タマだって本当に芽吹が人を殺しただなんて思ってないからな。安心しタマえ！」

風「全く、何言ってんのよあんた達。この勇者部に、人を殺すような悪い人間が居るわけないじゃない！」

棗「あぁ、風の言う通りだ」

芽吹「え、えぇ。そうね……」

芽吹（亜耶ちゃん……）

ー夜、芽吹の部屋ー

芽吹「入るわよ、亜耶ちゃん」

亜耶「すぅ……すぅ……」

芽吹（良かった。気持ち良さそうに眠っているみたいね。あら？枕にこんなシミあったかしら？）

芽吹（亜耶ちゃんの目、腫れてる。きっと沢山泣いたんだわ。大丈夫。私が守ってあげるからね）

芽吹（勇者部のみんなに相談しようかとも思ったけど、部活のあの様子じゃきっと駄目ね。みんな自首を薦めるに違いない。そんな事、私が絶対にさせない……！）

芽吹「私が、亜耶ちゃんを守らないと……」

ー数日後、勇者部室ー

東郷「大丈夫？友奈ちゃん？」

友奈「うん……。ごめんね、心配掛けちゃって」

夏凜「行方不明の子が気になるのは分かるけど、あんたまで気を落としたら余計心配になるわ。大丈夫よ。どうせ家出かなにかだろうし、すぐに戻ってくるわ」

友奈「うん。そうだと良いな」

樹「でも、友奈さん達のクラスメイトの女の子が行方不明だなんて。ちょっと心配だね、お姉ちゃん」

風「そうね。まだ事件や事故に巻き込まれたかどうかは分からないけど、気を付けておくに越したことはないわ。みんなも出来るだけ誰かと一緒に下校するように。いいわね？」

若葉「あぁ、心得た」

ひなた「ふふふ、じゃあ若葉ちゃん。今日も一緒に仲良く下校しましょうね〜」

若葉「そ、そうだな」

芽吹（まずいわね。もう行方不明の情報が出回っている。まぁ亜耶ちゃんのストーカーは友奈達のクラスメイトだったわけだし、当然と言えば当然か）

雀「メブ〜！一緒に帰ろ〜？もし何かあっても、私何も出来ないから全力で守ってね！」

芽吹「え、えぇ」

雀「本当？！わーい、やった！あややも一緒に帰ろ？」

亜耶「…………」

雀「あやや？」

亜耶「あ、す、すみません。はい、そうしましょう」

夕海子「あら？国土さん。今日はちょっと顔色が良くありませんわね。ここは弥勒家自慢のお紅茶で気を紛らわせて差し上げましょう。アルフレーーッド！」

雀「はいはい、偽お嬢乙」

夕海子「すーずーめーさーん！？」

ﾜｲﾜｲｶﾞﾔｶﾞﾔ

亜耶「あの、芽吹先輩。後でお時間よろしいでしょうか？」

芽吹「え？えぇ。勿論良いわよ」

ー放課後、芽吹の部屋ー

亜耶「あの、芽吹先輩。……やっぱり私、自首します！」

芽吹「え？」

亜耶「このまま黙っているなんて出来ません！人を1人、殺してしまったわけですし……。それに、勇者部の皆さんも心配して」

芽吹「駄目よ！それは絶対駄目！」

亜耶「え？そ、そんな。いくら芽吹先輩の言う事でも、それは……」

芽吹「たとえ不可抗力でも、警察や大赦に行ったら何をされるか分からないし、それに亜耶ちゃんが私の側を離れるかもしれないだなんて、そんなの絶対嫌！」

亜耶「芽吹先輩……。それでも、私は……」

芽吹「……腹を切るわよ」

亜耶「はい？」

芽吹「亜耶ちゃんが捕まるくらいなら、私は……！」

亜耶「や、やめて下さい！そんな事言わないで下さい。芽吹先輩が死んでしまったら、私……」

芽吹「……ふぅ。ごめんね亜耶ちゃん。でも、聞いて。亜耶ちゃんは何も悪くない。自首する必要なんてないのよ。これからも、亜耶ちゃんは何も心配せずにいつも通りの日常を送っていいから。後は全部、私の方で何とかするから。ね？」

亜耶「芽吹先輩……」

芽吹「勝手に自首したら、ね？」ｸｲｯ

亜耶「は、はい……！」

芽吹（ふぅ。そろそろ腹を決めないといけないわね）

ー？？？ー

芽吹「………………」

芽吹「………………」

芽吹「………………」

ー数日後、勇者部室ー

夏凜「今度は、樹のクラスメイトが行方不明になるなんてね……」

風「樹、大丈夫？」

樹「うん……。あんまり関わりがあったわけじゃないけど、何だか悲しいな。それに、ちょっと怖い」

若葉「そうだな。立て続けに讃州中学の女子生徒が2人も行方不明になるなんて、ただごとじゃない」

ひなた「大赦も、この件についてはまだ何も分かっていないそうです」

風「まさか、これもバーテックスの仕業なんて事はないでしょうね？」

ひなた「それはまだ分かりませんが、考えてみる価値はありそうですね」

雪花「そうだね。神世紀は西暦に比べて、随分と治安が良くなったって聞くし」

亜耶「…………」ﾌﾙﾌﾙ

しずく「国土？大丈夫？」

亜耶「……あ、はい。大丈夫です、しずく先輩」

しずく「？」

亜耶（これは一体、どういう事なのでしょうか？）

風「取り敢えず、今日の部活はここで解散。まだ明るい内に帰りましょう」

歌野「そうね。私も畑のベジタブル達が心配だけど、今はそれよりもみーちゃんの安全の方がインポータントだわ」

水都「うたのん……！」

芽吹「さ、亜耶ちゃん。帰りましょう」

亜耶「は、はい！」

ー？？？ー

？？「あ、あの若葉様？言いつけ通り1人で来ました。メールで頂いた場所、ここで良いんですよね？」

？？「よく来たわね」

？？「あ、あなたは勇者部の……。あの、私若葉さんに呼ばれて来たんですが」

？？「そう、悪いわね。こんな時間に。若葉はこの先にいるわ」

？？「あ、ありがとうございます」ｽﾀｽﾀ

？？「……ごめんなさいね」

？？「え？…………うっ！」ﾄﾞﾝｯ

？？「さて、誰にも見つからない内にバラしてしましましょう」

ー数日後、勇者部室ー

ひなた「皆さんもご存知の通り、今日また新たに讃州中学から行方不明者が出ました。行方不明になったのは相沢江利さんです」

水都「あ、相沢さんって確か、乃木さんのファンクラブの会長さんだったよね」

球子「ま、まさかついにひなたに……！」

杏「タマッち先輩！」

ひなた「私が何ですか？球子さん？」

球子「い、いや何でもないぞ！続けタマえ」

ひなた「はぁ……。学校も、事を重大と見たようで、暫くは臨時休校になるそうです」

風「だから、勇者部の活動も暫くは休止せざるを得ないってわけ。勿論、バーテックスとの戦いにはいつも通り参加してもらうわよ」

若葉「相沢さんか……。心配だな。彼女には色々と良くしてもらったし……」

ひなた「色々と？」

若葉「あ、いや。特に深い意味はないぞ」

夏凜「まぁでも当然よね。こんな事態になるなんて、ちょっと異常だわ」

雀「ちょっとどころじゃないよ〜！ねぇメブ〜！守ってね！何かあったら絶対守ってね！」

芽吹「はいはい」

ガチャ

？？「すみません。乃木若葉さんは居られますか？」

若葉「ん？乃木若葉は私だが、そういうあなた達は？」

警察「我々は香川県警です」

球子「な、何！ついに杏がしょっぴかれるのか？！」

杏「ちょっ！タマッち先輩どういう意味？」

警察「いえ、少し乃木若葉さんからお話を伺おうかと思いまして。署までご同行願えますか？」

若葉「わ、私は別に構わんが……」

ひなた「ちょっと待ってください！どうして警察が若葉ちゃんに？！ご用件は何なのでしょうか？」

警察「……本日行方不明になった相沢江利さんのスマホに、あなたからの呼び出しメールが入ってまして」

若葉「え？」

警察「これがそのメールをコピーしたものです」ﾋﾟﾗｯ

若葉「『今夜11時、下の地図の場所で待っている。この事は誰にも告げず、必ず1人で来てくれ。大事な話がある』だと？！こ、こんなメール出した覚えはないぞ！」

警察「そうですか……。宜しければスマホの中身を確認させて頂けますか？」

若葉「……まぁ良いだろう。それで私の疑いが晴れるのなら」ｽｯ

警察「……おや？乃木さん。これは一体どういう事ですかな？」

若葉「なっ！？どうして？……確かに送信履歴には残っている。だが私は……！」

警察「詳しいお話は署の方で」

ひなた「あ、あの！事情聴取はあくまで任意ですよね？だったら」

警察「ええ。しかし、断るという事はそれなりの理由がある筈です。我々はそう判断します」

園子「……私達を脅そうっていうの？ふざけないでよ！」

若葉「いや、園子、ひなた。良いんだ。誓って私は何もしていない。身の潔白を証明しに行くだけだ。だから心配しないでくれ」

警察「ご協力、感謝します。では」

ガチャ

友奈「若葉ちゃん。連れて行かれちゃった」

雀「ちょ、ちょっと！これってどういう事？誰かがこっそり若葉さんのスマホから会長さんにメールを送ったってわけ？」

しずく「そういう事になる」

雀「そんなっ！」

ひなた「…………い。…………す」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

千景「う、上里さん？」

ひなた「……絶対に許しません。私の可愛い若葉ちゃんを犯人に仕立て上げようとした輩は、必ずこの手で……」

須美・銀・園子「ひっ！」

風「落ち着きなさい。ひなた。勇者部員に罪をなすりつけようとした不届き者、私だって懲らしめてやりたいけど、ここは警察に任せましょう」

高嶋「そうだよヒナちゃん。今は警察を信じて若葉ちゃんの帰りを待とう？若葉ちゃんも帰って来た時にヒナちゃんがそんな顔してたら悲しむだろうから」

ひなた「……そうですね。皆さんありがとうございます。少し、落ち着きました……」

園子「私も、大赦にお願いして調べてもらうよ」

風「そうしてちょうだい、乃木」

亜耶「あ、あの。芽吹先輩……」

芽吹「なぁに？亜耶ちゃん？」

亜耶「……いえ、何でもありません……」

ー翌日、勇者部室ー

ガチャ

若葉「ただいま」

ひなた「若葉ちゃん！」

千景「乃木さん、大丈夫？何もされてない？」

若葉「あぁ、私は無事だ。みんな、心配を掛けてすまない」

樹「それで、その。容疑は晴れたんでしょうか？」

若葉「あぁ。あの後すぐに私の目撃証言がいくつか出て来てな。監視カメラにもバッチリ映っていたし、晴れて無罪を証明出来たというわけだ」

ひなた「そうですか。その言葉が聞けて、本当にホッとしました」

若葉「その日も鍛錬をしていたのだが、たまたま芽吹に良い鍛錬場を教えてもらっていてな。いつもとは違う所で鍛錬していたんだ。いつも行く場所は人の目も殆どなく、そこで鍛錬していたらこんなに早く容疑が晴れる事もなかっただろう」

ひなた「そうなんですね！私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます、芽吹さん！」

芽吹「いえ、お礼を言われるようなことではないわ。こうなる事を狙っていたわけでもないし」

亜耶「芽吹先輩……！」

亜耶（良かった。芽吹先輩が犯人じゃないんですね。犯人だったらわざわざそんな事しませんもの）

若葉「あぁ、だが。その、少し言いにくいんだが……」

ひなた「どうしたんですか、若葉ちゃん？」

警察「ここからは我々が」

風「け、警察！どうしてまだ警察が？若葉の容疑は晴れたんですよね？」

警察「えぇ。しかし、乃木さんのスマホを調べた所、乃木さん以外にある方の指紋が検出されまして……」

風「え？」

警察「楠芽吹さん。あなたの指紋が検出されたんですよ」

雀「そんな！何かの間違いじゃないんですか？！第一どうしてメブの指紋と照合出来るの？」

警察「間違いありません。大赦から送られたデータでは、楠芽吹さんの指紋との事ですし」

風「そういえばここにいる全員、大赦に指紋を取られていたわね」

しずく「でも、若葉のスマホくらい、勇者部員なら全員触っててもおかしくないんじゃ？」

雀「そ、そうだよ！」

ひなた「……ハッ！あ、あの芽吹さん。昨日若葉ちゃんが警察の方に連れて行かれる前に、若葉ちゃんのスマホを触りましたか？」

芽吹「いえ、触っていないわ。昨日じゃなくて何日か前なら触ったかもしれないけど」

ひなた「……それはおかしいです。私は毎日若葉ちゃんのスマホを丁寧に拭いているのですが、事件の前にスマホを触ったのなら指紋は綺麗に拭き取られている筈です。私が最後に若葉ちゃんのスマホを拭いたのが丁度事件が起きた数時間前なので、少なくとも芽吹さんは事件発生の前後に若葉ちゃんのスマホを触った事になります」

芽吹「そ、それは……」

警察「ところで楠さん。事件があった晩、どこで何をしていましたか？」

芽吹「その日は確か……山で鍛錬を」

警察「それを証明できる人はいますか？」

芽吹「……多分、いないと思います。ずっと1人だったので」

警察「そうですか……。詳しい話を聞きたいので、署までご同行願えますか？」

雀「み、見たもん！私、メブが山で鍛錬してるの見た！」

芽吹「雀……」

長すぎるだろ…

雀「う、嘘じゃないよ。本当に、本当に見たんだから……！」

芽吹「良いのよ、雀。虚偽の申告は罪に問われるかもしれないし……。私なら大丈夫よ」

夕海子「そうですわよ。それにあの晩、あなたは私達とトランプに興じていたじゃありませんの」

しずく「私も一緒だった」

雀「そうだけどさぁ……」

亜耶「芽吹先輩……！あの……」

芽吹「大丈夫よ。亜耶ちゃん。亜耶ちゃんは何も心配しなくて良いから」

亜耶「帰ってくるん、ですよね？」

芽吹「………………えぇ」

警察「そろそろ」

芽吹「はい。……それじゃ、みんな。亜耶ちゃん。元気でね」

亜耶「芽吹先輩！芽吹先輩〜！」

ー数日後、勇者部室ー

ひなた「皆さん。風さんから、大事なお話があります」

風「みんな、揃っているわね……」

しずく「楠以外」

風「……芽吹が、自供したそうよ」

一同「えっ！！」

友奈「じ、自供って、どういう事？」

球子「ま、まさか強要されたのか？！やってもない事を認めたのか？！」

風「一連の行方不明事件の犯人は全て自分だと言ったそうよ。乃木が遣わせた大赦職員からの報告では強要もされていないみたい」

亜耶「え？」

雀「何かの間違いだよ！きっと気が動転してて、自分がやったって思い込んじゃっただけだよ！絶対そうだよ！」

風「行方不明者を埋めた場所も吐いててね、そこを調べたら、本当に行方不明になった女子生徒の遺体が見つかったんだって」

棗「そんな……」

ひなた「死体を埋めた場所なんて、犯人しか知りようがないですからね」

友奈「し、死体って……！」

亜耶「うっ……」ｵｴｯ

雀「だ、大丈夫？あやや？」

亜耶「……すみません。トイレで吐いてきます」

ひなた「では、私も着いていきます」

亜耶「ありがとうございます。ひなた先輩」

亜耶「……オエッ！……エェ！ッケホッ！ケホッ！」

ひなた「大丈夫ですか？亜耶さん」

亜耶「は、はい」

ﾜｲﾜｲｶﾞﾔｶﾞﾔ

夕海子「動機は！動機は何なんですの！」

風「……『人を殺してみたかった』そうよ」

夕海子「はい？」

友奈「嘘だ！芽吹ちゃんは絶対そんな事思わないもん！私知ってるもん……。芽吹ちゃんは、誰よりも仲間思いで……」

夏凜「そうね。意地っ張りな所はあるけど、絶対に人を傷付けるような性格じゃないわ」

雀「……ぐすっ。そうだよ。メブは防人組のリーダーとして、誰一人死なせないって。そう言って今迄ずっと私達の事を守ってくれたんだから！そんなメブが人を殺す筈ないよ！」

風「そう、よね。これにはきっと、何か事情があるに違いないわ」

若葉「たとえどんな事情があるにせよ、事件に絡んでいたのは間違いないんだろ？だったら、私は芽吹を赦すわけにはいかない」

雀「そんなっ！」

若葉「芽吹が直接殺人に加担していないにしても、事件の事を知っていて黙っていたのは間違いない。人が3人も亡くなっているんだ。亡くなった人の事を考えると、私は……」

雀「た、確かに亡くなった人の事を想うと私だって……。でも、でも！メブにだって何かきっと事情があったんだよ！」

折れない心に狂気を感じる
ちなみに俺は元ネタが分からんので感想とか無い

亜耶（や、やめ……）

若葉「どんな事情だ！」

亜耶（私の、私のせいだ。私が……）

雀「だからそれは！」

亜耶（私があの時、……さなければ）

風「いい加減にして！もういいでしょ？今は、許すとか許さないとか、そんな事……」

ひなた「風さん……」

亜耶「……あ、や、みな、皆さん。あ……あの」

雀「……あやや？」ｷﾞﾛｯ

亜耶「いや、あ……ご、ごめんな……ぁ」ﾊﾞﾀｯ

高嶋・結城「亜耶ちゃん！？」

ひなた「大変です！すぐに保健室に」

ﾜｰｷｬｰﾜｰｷｬｰ

ーその日の夜ー

園子（これは明らかにおかしい。メブーがそんな事する筈ないっていうのは勿論だけど、色々と違和感がある）

園子（確かに最近のメブーは様子がおかしかったし、殺しちゃったのは間違いないのかもしれない。でも動機が『人を殺してみたかった』っていう取って付けたような感じなのはどうして？）

園子（そんな理由で人を殺すような子じゃないし、刑を軽くしようと思うのならもっとマシな動機を思いつける筈）

園子（そして、一番引っかかるのはわかちゃんに罪をなすりつけようとした所。本当にわかちゃんを犯人に仕立て上げようと思ったなら、新しい鍛錬場なんて教えない筈。わざわざ目撃証言が集まりそうな場所を選んだ理由は？）

園子（これじゃ、まるで自分から捕まりにいっているみたい。……誰かを庇っている？）

園子（でも、誰を……。分からない）

園子（これは、動く必要がありそうなんよ）

ー翌日ー

雀「あやや、まだ眠ってるね」

夕海子「えぇ」

雀「お医者さんは過労だって言ってたけど……」

夕海子「心配、ですわね」

しずく「うん」

雀「メブもあんな事になっちゃったし……私達、これからどうすれば」

夕海子「雀さん……」

ー街中ー

園子（まずは被害者について調べないと）

園子（最初の一件は私達のクラスメイトの舞原恵美（14）。オタクっぽい女の子で、一緒に遊ぶ事はなかったから印象は薄い）

園子（次がいっつんのクラスメイトの三河えにし（12）。大人しめな女の子で図書委員だったみたい）

園子（最後がわかちゃんファンクラブ会長の相沢江利（14）。わかちゃんが好きな女の子。それ以上はあんまり知らない）

園子（うーん、ぱっと見共通点は無さそうなんよ）

友奈「あれ？園ちゃんだ〜。どうしたのこんな所で？」

東郷「こんにちは、そのっち」

園子「ゆーゆ、わっしー。2人こそ、今日もデート？」

東郷「あ、あ、逢引きだなんて、そんな」

友奈「うん。なんかね、1人でいるのが、ちょっと心細くて」

園子「あんな事があった後だもんね」

東郷「そのっちこそ1人で何をやっていたの？」

園子「うーん、何かやっていたわけじゃないんだけどね。例の件について、ちょっと調べてみようと思って」

友奈「それ！私も協力して良い？」

園子「え？」

友奈「私も、芽吹ちゃんの事、気になるし」

東郷「友奈ちゃんが行くなら私も。私だって腑に落ちない点は多いから」

園子「うん、そうだよねぇ。……じゃあ2人にも手伝ってもらおっか」

友奈「やった！」

………………

友奈「じゃあさ、その。亡くなった子達のお部屋に行ってみるのはどうかな？部屋って個性が現れるって言うし」

東郷「素晴らしいアイデアだわ！流石は友奈ちゃんね！」

園子「でも、入れてくれるかな？」

友奈「うん。そこが問題だよね。でも、取り敢えず行ってみようよ。駄目って言われたらきちんと謝ろう。成せば大抵何とかなる！」

園子「……そうだね。ゆーゆの言う通りだよ。相談して良かった」

東郷「悩んだら装弾ね」

園子（字が違う気がするのは気のせいかな？）
………………

園子（その後、ゆーゆの交渉術もあってか、2人目、3人目の被害者の部屋には入る事が出来た。でも1人目の被害者の部屋には「恥ずかしいから」という理由で入れなかった）

東郷「見たところ、特に気になる点はなかったわね」

友奈「そうだね。でももっと探せば何か見つかるかもしれない。捜査は足だよ！」

東郷「ふふふ、そうね友奈ちゃん」

園子「……わっしー。この後時間ある？」

東郷「？　えぇ」

ーその日の夜、舞原宅の屋根ー

東郷「まさかそのっちが私に部屋の侵入を頼んでくるとはね」

園子「わっしーなら出来るでしょ？」

東郷「えぇ、まぁ。精霊の力を使えば出来ない事じゃないわ」

園子「じゃあ、お願い」

東郷「分かったわ。青坊主」
　　　
ヽ（○ニ○）ノ「…………」ﾗｼﾞｬ

ガチャ

園子「入るよ」

東郷「こ、これは……！」

園子「私、分かっちゃったかも」

ー数日後ー

園子「元気になって良かったね、アーヤ」

亜耶「はい、おかげさまで……」

園子「その割には元気がなさそうだね。元気になったんだから、もっと元気出さないと駄目だよ〜」

亜耶「はい……」

園子「……この前ね、最初に亡くなった舞原さんのお部屋に行ってみたんだ」

亜耶「え？」

園子「そしたらね、こんな感じの部屋だった」ﾋﾟﾗｯ

亜耶「ッ！こ、これって」

園子「うん。壁一面にアーヤの盗撮写真が貼ってあるね。あと、写真の裏には彫刻刀で「亜耶ちゃん大好き」って文字がびっしり掘られてたよ」

亜耶「……ッ！」

園子「アーヤは人気者だねぇ」

亜耶「……いえ」

園子「舞原さんを殺したの、亜耶ちゃんでしょ」

亜耶「…………」

園子「ううん、殺したって言うか、正当防衛って感じかな？」

亜耶「は、はい！そうなんです。でも、殺してしまった事に変わりはなくて、だから私！」

園子「自首しようとしたけど、メブーに止められたんだね」

亜耶「はい。私が自首したら、芽吹先輩が腹を切るって……」

亜耶「だから！芽吹先輩は何にも悪くないんです！全部私が！」

園子「ねぇアーヤ。どうしてメブーは殺人なんて犯したのかな？」

亜耶「そ、それは」

園子「アーヤを庇うためだよね？」

亜耶「……はい。多分、そうだと思います」

亜耶「でも、どうして自分から殺人を……」

園子「それはね、連続殺人事件にして、最初の殺人に向けられる目を薄めたかったんだよ。そして全ての事件を自分の犯行にした。普通、連続事件の1件目と2件目・3件目が別の事件だとは思わないからね」

亜耶「じゃ、じゃあ！私の容疑を晴らすためだけに人を殺したって事ですか？！」

園子「そうだよ」

亜耶「そんなっ！」

園子「最初からメブーは捕まる気だったんだよ。犯人が出てくればそれ以上捜査は進まないからね。わかちゃんに罪をなすり付けたように見えるのも、本当はすぐに目撃証言が集まって今度は自分に疑いの目が向くって分かっててやったんじゃないかな？「偽装工作に失敗して仕方なく自供」いかにも犯人がやりそうな事だよ」

亜耶「……うっ。ぐすっ……芽吹先輩……！」

園子「この事を知っているのは、私とわっしーだけ。私もわっしーも警察に言う気はないよ。だってこれは、メブーからアーヤへのラブレターだから」

亜耶「ラブ、レター？」

園子「うん。だって、愛してなきゃ、こんな事出来ないでしょ？」

亜耶「……ッ！」

園子「だから、決めるのはアーヤ。アーヤはどうしたい？」

亜耶「わ、私は……」

園子「どっちを選んでも、アーヤの答えがきっと正解だよ」

芽吹「亜耶ちゃん」ｳﾌﾌ

芽吹「亜耶ちゃん」ｷﾘｯ

芽吹「亜耶ちゃ〜ん」

芽吹「亜耶ちゃん」ｺﾗｯ

芽吹「亜耶ちゃん」ﾆｺｯ

芽吹「亜耶ちゃん、大好きよ」

亜耶「……私、決めました！」

園子「そっか。……はいこれ。メブーの居場所。もうすぐ護送されるから、急いだ方が良いよ」

亜耶「ありがとうございます！園子先輩！」

ー警察署前ー

警察「それじゃあ、乗って」

芽吹「はい」

芽吹（亜耶ちゃん……。私、最後まで亜耶ちゃんを守れたのよね。亜耶ちゃん、大好きよ）

芽吹（元気でね、亜耶ちゃん）

亜耶「はぁ、はぁ、はぁ……！」

亜耶「芽吹先輩ー！！！」

芽吹「ッ！亜耶ちゃん？」

亜耶「はぁ、はぁ、はぁ……」

芽吹「嘘……。どうしてここに……」

亜耶「芽吹先輩！やっぱり私、納得出来ません……！」

芽吹「な、何を」

亜耶「舞原恵美さんを殺したのは、私です！私を逮捕してください！」

芽吹「駄目よ！亜耶ちゃん！……ち、違うんです！この子は私を庇おうとしているだけで、全部私が……！」

亜耶「芽吹先輩」

芽吹「亜耶ちゃん？」

亜耶「今までの事、本当に本当にごめんなさい！そして、ありがとうございました！」

芽吹「…………」

亜耶「私はっ！芽吹先輩から、沢山の愛情を、ﾋｯｸ、貰いました」

亜耶「いつも私は、助けられてばかりで、何も、……ﾋｯｸ、お返しする事が、出来なくて」

亜耶「でも、芽吹先輩は、そんな私を、いつもいつも可愛がってくれて。私は、私なんか……うぅ……ﾋｯｸ」

芽吹「ち、違う！そんな事ない！何も返してないなんて、そんな！」

芽吹「私の方こそ、亜耶ちゃんが居ないと、何も出来なかった。防人のリーダーというお役目も、みんなを守る事も、全部全部……。亜耶ちゃんが居てくれたから、私は、楠芽吹は防人でいられたの！」

芽吹「私は……私は！亜耶ちゃん！あなたの事が、大好きよ！今までもずっと、出会った日からこれからも！」

亜耶「私もです！私も、私も芽吹先輩の事が、大大大大、大好きです！！」

亜耶「どんな芽吹先輩も、私の1番大切な、憧れの人で、そして、最愛の人です」

亜耶「……だから、私も償います。芽吹先輩の分も。2人で、ずっと一緒に……ね？」

芽吹「あ……あ、あや、亜耶ちゃん……！亜耶ちゃん！！」

芽吹「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜！！！」

亜耶「芽吹先輩……！」

芽吹「あ゛や゛ち゛ゃ゛〜ん゛！！！」

ー数年後ー

亜耶「うぅ……」ｿﾜｿﾜ

雀「もぅ〜、落ち着きなってあやや」

夕海子「そうですわよ。もうすぐ芽吹さんのお務めが終わるめでたい時なんですから。堂々としていましょ」

しずく「そう。シズクも「落ち着け」って言ってる」

亜耶「そ、そうですよね。私がしっかりしないと……」

雀「そうだね〜、メブが真っ先に見たいのは、あややの顔だろうしね」

夕海子「そうですわね。ほら、もうすぐ出てきますわよ」

しずく「あ、来た」

芽吹「……みんな。亜耶ちゃん」

亜耶「芽吹、先輩」

雀・夕・し「………………」

雀「…………お務めご苦労様です！」

夕海子「ちょ、雀さん！真っ先に掛ける言葉がそれですの？！」

芽吹「全く、雀は相変わらずね」

雀「えへへ」

芽吹「……亜耶ちゃん」

亜耶「はい、芽吹先輩」

芽吹「ただいま」

亜耶「おかえりなさい！」

END

以上、亜耶ちゃんが誤って人を殺めてしまったSSでした。

途中のレスにもあった通り、『容疑者Xの献身』を参考にしました